ブラッディ アリス
…アリエス国にとっての汚物…。
『死体愛好家で、夜な夜な貴族の娘を殺している王子』と、『母と姉たちに奴隷のように扱われ、町を徘徊する貴族の娘』…。
「……真実が公になる前に…噂は噂のまま……消してしまわないと…ね?…それもハッピーエンドで」
「…そういうこと。……きっとさー…ラッセルゲナには、何度も言ってたんだよ。…シンデレラをどうにかしろって」
シンデレラが町へと出歩くようになっていたのは、ここ半年ほどの事だった。
「…王族が何を言ってもムダよ…。貴族には何もできないもの」
アリエス国貴族代表が不在のその期間…。
暖炉の脇で寝かされているのか…本当に灰燼(かいじん)に塗れた汚い服を着て町を歩く娘は、『サンドリヨン(灰かぶり)』と自然に呼ばれるようになった。
『サンドリヨン=シンデレラ』という噂はあったものの、全ての住民は本当のことを知らない。
真相を調べた王家と、そこから情報を得たアリスだけは、その事実を知っていた。
「それで、シンデレラは?」
「昨日から城にいるよ。…ちゃんとしたら、そこそこ美人だった」
「…でしょうね…。シンデレラの本当の母親は…エンジェルローズコンテストで二回トップになってるんだから」
フッとアリスは鼻で笑い、ラビがさりげなく用意してくれていた水を口にする。
「…継母とその連れ子はホントありえないよねー…。昨日会ったときに『シンデレラには勿体無い。本来なら姉のどちらかを嫁がせたい』なぁんて言われたけど…、あれじゃ殺す価値もないよ」
「…醜い死体は嫌よね…。…でも…シンデレラは絶対殺さないでよ!…面倒なことになるから!」
そんなアリスの一喝に、少し顔を歪ませるカイル…。
「……わかってる…。…絶対…殺らないよ…」
なんとなく自信がなさそうなカイルに対し、アリスは満面の笑みを返す。
「誓約ですわよ…カイル王子♪」
カイルは「ふん」と言って、アリスから目を逸らした。