オトコ嫌いなあたしと、オンナ嫌いなあなた。【完結】
「タロウは最期まで、これをくわえて離さなかった。
たぶん犯人は証拠品になるこれを取り返そうと焦ったんじゃろう。
タロウの体には数知れず殴られた跡があったんじゃが……タロウは、意識が朦朧としても、決して離そうとしなかった。
近所の人が気づいて駆けつけた時、犯人はすぐさま逃亡してな。
タロウはその時すでに虫の息じゃったが、近所の鈴木さんの知らせでわしは電車を乗り継いで急いで戻ってきたとき、既に6時間は経っておった。
じゃがタロウは…頑張ってくれたんじゃ!

わしに一目会えたタロウは、毒に犯された体で……苦しかったろうに。
力が入らないはずの頭をもたげて……わしを見ながら弱々しく一声だけ鳴いて……

そのまま逝ったんじゃ。
あとで獣医に訊いたら、即死でもおかしくない量の毒物を注射されたのだと聴いた。
タロウはきっと、犯人を捕まえて仇を取って欲しいと願ったんじゃと思う。
じゃから、わしも当然この注射器を証拠品として提供した。
だが、指紋も検出されなんだ。

犯人はかなり頭の良い輩じゃったんだろ。
それ以来パッタリと犯行は止み、警察の捜査も手詰まりになった」
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