オトコ嫌いなあたしと、オンナ嫌いなあなた。【完結】
「それじゃ、よろしくお願いします」


 玄関前であたしが精一杯に頭を下げると、加奈子先生は「いいのよ、あたしが好きでやってるんだから」と言ってくれた。


それだけのことなのに、すごくすごく嬉しくて。目の奥がじんわりと熱くなって慌てて我慢した。


「あなただってまだ高校1年生だってのに、偉いわ。お母さんの代わりにお家の事全部やって、お母さんの介護とアルバイトまでしてるんだから」


「いいえ、あたしは当たり前のことしてるだけです。お母さんが前より幸せそうだから、嬉しいんです。
皮肉ですよね。お父さんが全てだったはずなのに、別れてからの方が幸せなんて」


 あたしが思わずため息と共に胸の奥に仕舞った筈の言葉を出したのは、その日吹いてたさらりと涼やかな風が硬いものを飛び越えてしまったせい。


 それを聞いても加奈子先生の穏やかな微笑みは、髪ひとすじだって乱れない。


深茶色の瞳には揺ぎ無い暖かさと確固とたるものがあって、あたしはこの先生に幾度助けられたろう。

ただその顔を見ているだけで慰められたし、大丈夫と励まされてる気がした。
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