オトコ嫌いなあたしと、オンナ嫌いなあなた。【完結】



自然と体が浮くのは水に対する浮力で、というのはぼんやりと理解しているんだけど、足が着かないからか、ゆらゆらと波に揺らめくその慣れない不安定感で、焦って手足を動かしてた。


けど、しばらくしたら背後から力強い何かがあたしの体を抱きとめて、少しは安定させてくれたから、ホッとした。


「……ありがとう」


マモル君かな?流石は彼だな。と思ったあたしは、すぐにお礼を言ったんだけど。


すぐ後ろから聴こえたのは、予想外の人間の声だった。


「ほう、素直過ぎて不気味だな、クラゲアタマ。
ストレートバストな分浮力は弱いと思ったが、この分なら台風の中でも平気そうだな」


この毒舌は。


あたしは一瞬で気分が沈み込んで、漬け物石を括り付けたみたいに胸が重くなった。


……だけど。


ナギの体温が、鼓動が、体の動きが、力強さが、肌を通して伝わってくる。


触れた部分が温かい。


心臓の鼓動が速くなってく。


……ナギの気持ちを、今訊いてみなきゃ。


あたしは深呼吸して、逸る気分を鎮めようと努めた。


< 822 / 1,000 >

この作品をシェア

pagetop