オトコ嫌いなあたしと、オンナ嫌いなあなた。【完結】
口いっぱいに甘酸っぱい豊かな香りが広がる、あたしの大好きなアップルジュースだった。
「美味しいジュースですね。赤石さんもこれが好きなんですか?」
迷わずこれを出した赤石もアップルジュースが好きなんだ、って考えて何気なく訊いてみただけなんだけど。
「いや、君の好みに合わせたから」
赤石がサラリと言った台詞の意味は、アップルジュースの幸せに浸ってたあたしには暫く浸透しなくて。
「君の事は何でも知ってる……保育園の時に男子にいじめられたこと、ニホンリスのミクのこと、静江おばあちゃんのこと、鈴木部長の酷い仕打ち。それから……」
気がつけば赤石はあたしの手を取り、腕時計を外してそれで隠してた薄い傷跡を見つけ――
そこに唇を当てた。
あたしの胸がトクン、と小さく鳴り始める。
「君が絶望し、自殺しかけた事も。私は何もかも……凪などよりも君を知っている」
あたしの耳にそう囁く赤石の黒い瞳から、目が離せなかった。
だってそれは――
紛れもなく、黒髪の王子さまそのものだったから。