それでも、すき。


「…よかった…っ!」


昨日の事も、瞳ちゃんの事も、もうどうでもよかった。

とにかく香椎くんが目を覚ましてくれた事に、何よりも安心した。


香椎くんはそんなあたしを見て、力なく笑う。



ぐす、っと涙を拭い

「今誰か呼んで来るね、」

と立ち上がると、冷たい指先がすかさずあたしの腕を掴んだ。

状況を理解出来ないままに引き寄せられる。



「ゆの……、」

耳元で響く、弱々しい声。

あたしを呼ぶその声が、五感の全てを麻痺させてゆくようだった。



抱きしめられたあたしは、雨に打たれながら再び彼へと呼び掛けた。



「……香椎くん…?」

返事はない。

瞬間、あたしを包んでいた腕の力が緩んでゆく。

嫌な予感が
脳裏を通り過ぎた。



「…香椎くん?」

不安を掻き消すように、もう一度呼び掛けてみる。


だけど、ずるりと崩れ落ちた香椎くんの体が、その予感を現実のものにして。

あたしの目には、瞼を閉じ、地面に倒れる香椎くんの姿が映り込んだ。




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