それでも、すき。
シン、と張り詰めた空気。
微妙に空いた距離が、香椎くんの動きを視界の隅に映す。
何を言われるのか、身構えていたあたしに返って来たのは
意外な言葉、だった。
「俺は好きだけど。」
「――え…?」
誘われるように上げた視線が、香椎くんの澄んだ瞳とぶつかる。
吸い込まれそうな程、綺麗な視線に動けなくなった。
「だから、俺は――。」
その時だった。
ガチャガチャ、と音楽室の扉から聞こえた音。
二人の視線がほぼ同時に同じ場所に向けられる。
「あれぇ?鍵掛かってるんだけどー。」
「えーっ?本当に?」
「あ、あたしピン持ってるかも。」
「ピンで開けるのぉ!?」
その扉越しに届いた声が、あたしの思考を停止させた。
――嘘。
こんな場所で香椎くんと二人で居るところを見られたら…っ!
尚も扉を開けようとする音が、音楽室に響く。
その時、完全に硬直してしまったあたしの腕を取り、香椎くんが言った。
「委員長、こっち。」
「…え、」
「いいから、早く!」
香椎くんの気迫に驚き、あたしの鈍った思考が動き出す。
慌ててお弁当箱を片すと、あたしは香椎くんに従って立ち上がった。