それでも、すき。
視界が急に暗くなったような気がした。
案の定、窓の外でぽつりぽつり雨が降っているのが見える。
「じゃあ、あたし行くね。」
「……うん…、」
手を振る菜未ちゃんは
あたしの様子に気が付く事もなく、音楽室へと歩き出した。
そんな彼女の後ろ姿を見送る。
頭の中に駆け巡るのは、さっき菜未ちゃんが言った言葉。
『うん、ちょっと音楽室にね。』
…きっと違う。
そんな訳ない。
そう言い聞かせる一方で
“でも”という二文字が、脳内を占領してゆく。
もしそうだとしたら…?
どんなに振り切ろうとしても、付いて来るのは彼の声。
『―――柚果、』
「……っ、」
貫くような痛みが、胸元を過ぎて。
そして次の瞬間、あたしの足は昇降口とは逆に向かっていた。
“音楽室”へ――。
踏み入れてはいけない、とわかっていながら。