恋人は専属執事様Ⅱ
「お嬢様、おはようございます」
よく通る声が今日は流石に居心地悪い。
許婚を解消されたと知った翌日が鷹護さんの当番って、結構な罰ゲームだと思う。
返事を先延ばしにした私が悪いから自業自得だけど…やっぱりツラい。
「おはよう、鷹護君。本日はお昼までお嬢様を頼みます。わたくしがお迎えに上がりますから」
いつも通りに話す藤臣さんに、鷹護さんも畏まりましたと一礼する。
「そう言えば…」
思い出したように藤臣さんが鷹護さんに小声で話す。
「如月家とはお知り合いでしたね」
「母の実家ですがそれが?」
怪訝そうに鷹護さんも小声で応える。
「ではお嬢様に周様のお話をお願いいたします。本日のお見合いのお相手がどのような方かお嬢様もお知りになっていただいた方がよろしいと存じますので」
藤臣さんの言葉に私は目を見張り固まった。
誰の話をしているかと思えば今日のお見合い相手?しかも鷹護さんの親戚!?
そりゃ名前も訊かなかった私も悪いけど、何でわざわざ鷹護さんに?
「それでは失礼いたします」
藤臣さんはドアの前で一礼して去って行く。
気まずい話題を振り逃げとかドSにも程がある…
遣り場のない思いにオロオロしていると突然
「お嬢様、失礼いたします」
と言う声と共に私の体がふわりと浮く。
見るからに不機嫌な顔をした鷹護さんにお姫様抱っこをされて、そのまま廊下に連れ出される。
何で鷹護さんが不機嫌になるの?
そんな思いは一瞬で、すごい速度で歩く鷹護さんに抱き付いて私は夢中で目を瞑った。
ガチャンと言う大きな音に目を開けると、梅雨の晴れ間が間近に見える。…屋上?
漸く地に足が着いたと思ったと同時に
「何故周と見合いを?」
壁を背にした私は鷹護さんの腕に挟まれ追い込まれる。
…私が訊きたい。
鷹護さんから許婚を解消したのに何で私を怒るの?
「鷹護さんに許婚を解消されたからお祖父さんがお見合いの話を…私に早く結婚して欲しいんですよ。もういいですから早く教室に戻らないと…」
階段へ向かう私の体が強く引かれ、また鷹護さんの腕の中に戻される。
「祖父に言われれば誰とでも結婚するのか?」
冷たい言葉に昨日から我慢していた涙が込み上げる。
「周なんかに渡せるか…俺はお前と許婚なんかに縛られずに付き合いたくて破棄したんだぞ」
…え?今、何て…
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