しあわせ音色
 この古川書店に来たのは、2ヶ月前のことだった。

 紗江が行きたい場所があると言うので、付き添いで来たのが始まりだった。


 紗江と元々の知り合いだという古川書店店主のヤエコさんは、初めて会ったときからなんだか不思議と心許せる人だった。
 わたしはすぐに打ち解け、それからたいてい毎日書店に通うようになった。



「依都姫ちゃん、東側の本棚二段目までチェック進めておいたわ」

「はーい。じゃあ三段目からだね!脚立かりまーす」


 そして古川書店は今、ちょうど改築準備中だったりする。

 この書店はヤエコさんが先々代から受け継いだもので、築百年は経つ古民家なのだ。


 百年だけに、歴史ある建物と言えば聞こえはいいが、相当傷みが酷かった。

 床は軋むし、雨が降れば雨漏りし、風が吹けば揺れる。さすがにまずいということで、ヤエコさんは改築を決めた。


 しかし、ひとつ問題があった。
 改築の前に、大量の蔵書を移動させなければならない。
 狭いスペースに所せましと並べられた本棚に、限界まで押し込まれた書物は、先々代から大切に集められた、いわばコレクションのような本たち(一応販売している)。
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