My Sweet Sweet home
「返してよ!拓海をあたしに返して!あたしのものだったのよ!!」



初めて会った時の上品さはどこへやら。綾はすさまじい顔つきで叫んだ。


そしてその目はほとんど泣きそうだった。



「拓兄はあんたのものじゃないしあたしのものでもない!あんたがこんな事するめんどくさい女だから拓兄も離れていったんじゃない!!」



そう。あたしのものじゃない。この十数年どれだけそれを願ったって叶わなかった。



それなのにこの女はたかだか何週間か付き合っただけで、軽々自分のものだと口にする。



それだけならまだしも、あたしのものじゃないと改めて口に出して言わされるはめになった。



「なんでこんな事言わせるの!なんで今あたしにこんな事言わせるのよ!」



あたしも綾に負けない声で叫んで、綾の横っ面を思いっきり張った。



パアン



綾の体はぐらりと左に揺れた。



泣きそうになっているのは綾だけではない。



あたしも同じ。



でもこんな女たちの前では絶対に泣かない。



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