白いかけら
 俺は彼女の歌を聞きたくて、朝早く起きた。
 まだ、空が明るくなったばっかりの時間だ。
 それなのに、外に出てみると彼女は、白い世界に溶け込むように立っていた。
 いつものように、冷たい風が頬を撫で青いマフラーを揺らす。
 彼女は言葉がうまく話せないのに、歌を歌っているときはそれを感じさせなかった。
 俺は以前のように、彼女にあわせて歌い出した。
 この歌は、以前に歌った歌と同じだったから、歌うことは簡単だった。
 ひらひらと、雪が舞い降りてきた。
 いつの間にか時間は経っていたらしく、空は青く太陽が少し高く昇っていた。
 そのため、雪はきらきら光り、幻想的だった。
 俺の耳に、初めてあった時の彼女の言葉が聞こえた。
「私は、ウィン。祝福って意味があるの。
 あのね。私が生まれたとき、青空の中雪が降っていたの。
 知ってる?そのときに生まれた子は、神様の祝福を受けているんだって。
 だから、ウィンなの。」
あの時、灰色の雪の中、彼女だけがきらきら輝いているように見えた。
 目を閉じてみると、短い間だったが彼女の思い出が俺の中で溢れる。
 天使のような彼女は、いつも笑っていた。
 いつも明るく、自分が病人だと、死ぬのだと思わせるそぶりを見せなかった。
 目を開けると、彼女は俺を見ていた。
 その目に、光がともっているような錯覚が起こった。
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