蒼翼記

この暗さで明確な輪郭が捕らえられないから、相手の表情どころか、容姿さえわからない。




「物心ついた頃からそう呼ばれている。
それ以外に名がない」




その沈黙に耐えられなくて、つい弁解じみた口調で事実を口にする。


それを聞いてその声の主は納得したような声を出した。





その声は鈴のように綺麗で、中性的な、不思議な響きを持っている。


「じゃあやっぱり鳥さんて呼んでもいい?」



そこでふと、素朴な疑問が首をもたげる。






確かに、腰から生える羽を見れば『鳥』ともとれるだろう。


だがこの全くの暗闇では異人類種である僕でさえ、相手の容姿が掴めないのに相手はこちらの容姿が見えているのだろうか?


「お前も…異人類種なのか?」

やや堅い僕の言葉に、相手は不思議そうな声を出した。

「イジンルイシュ…?って、鳥さんが呼ばれてる名前にもあったみたいだけど…僕にはそういった呼ばれ方はないと思うよ?っといっても、ここには滅多に人が来ないんだけど」


その声に寂しいような響きはなく、意外にもここでの生活を愉しんでいるような風にもとれる。


「僕はリン・リカルド。よろしくね、可愛い鳥さん。」
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