蒼翼記




可愛い、なんて生まれて初めて言われたけど、別段悪い気はしなかった。


「なんで来たのがわかったんだ?
足音は消えてたはずだ」



暗闇の奥で、リンがクスクスと無邪気に笑う気配があった。


「声がいつもと違う響き方をしてたから。
誰かいるのかなーって思ったんだ」



視覚ではなく、リンは聴覚で僕の存在を察知していたようだ。

そこまで微細な変化を感じ取れるようになる程に、ここに長くいるのだろうか。

そこまで考えたところで、遠くから鳴り響く半鐘の音を聞いた。

当然、その音をリンが聞き逃しているはずはなかった。



「?上で何かあったのかな。」




そんな呟きをよそに、内心で独りごちる。


もうそんなに経っていたのか。



この暗闇だと意識しない限り時間の経過に気付けない。




「…僕がいつまでも帰って来ないから慌ててる。行かなきゃ。」

「鳥さんを?」



「鳥は鳥でも、籠の中の鳥だから。」





自由にはなれない鳥。
今までも、これからも。





「またお話しに来てね。」


去り際背後から響いた声は、
無邪気で、
優しかった。
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