粉雪2-sleeping beauty-
「…それよりさ、真鍋のヤツ、結婚するんだって。」


『…マジ?!』


千里は目を見開いて、こちらに顔を向けた。



「…マジらしいぞ?
何か、子供が出来たんだと。」


横目に見た千里は、落ち着くためか煙草を咥えていた。


何かを考えるように、ゆっくりと火をつけ、吸い込む姿を見つめた。



『…そうなんだ。
じゃあ、怒っちゃって悪いことしたね。』


「…いや、それとこれは別じゃねぇか?」


千里から吐き出された煙が、車内を包む。



「つーかお前、大丈夫か?
嫌だったら―――」


『マツ、心配しすぎなんだよ。
そんなにあたしの心配ばっかしてたら、ハゲるよ?』


俺の言葉を遮って、皮肉を込めて笑う千里に、ため息をついた。



「…心配させてるお前が言うなよ。」


『…そりゃそーだ。』


クスッと笑った千里を確認し、再び正面にある車のナンバープレートに目線を戻した。



『…別にあたしね、子供が欲しかったわけじゃないんだ。』


同じように正面を向いた千里は、ゆっくりと口を開いた。


『…ただ、子供が出来たら、隼人は仕事を辞めてくれると思ってた。
あたしは、子供を利用しようとしただけなんだよ…。』



“最低じゃない?”と付け加え、悲しそうに笑う。


その瞬間、心臓が掴まれたように痛みを覚えた。



「…そんなこと言うなよ…。」


そんな言葉しか言えなかった。


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