粉雪2-sleeping beauty-
『―――ナベくん、結婚するって聞いたよ!
おめでとう!!』


パスタ屋の駐車場に着き、車を降りた千里は、一目散に真鍋の元に駆け寄った。



『…いやっ、まぁ…。』


真鍋は頭を掻きながら、困ったように笑う。



『残念だよね~。
あたし、密かにナベくん狙ってたのに!(笑)』


『あははっ!そんなこと言って、高い酒注文させられるんでしょ~?』


『え~?本心なのに~!(笑)』


いつの間にか、いつも通りに真鍋と千里は笑いあっていた。



お前はいつも、自分の本当の気持ちを押し殺すんだ。


それがわかってたから、見てて辛かった。


さっきの出来事が嘘みたいに、お前は笑ってたよな。


でもお前は、俺だけの前では少しだけ本音を漏らしてたから。


まだちょっと、安心してたんだ。



俺はそれさえも奪ったのに、結局お前は俺を責めなかった。


俺はただ、逃げただけなんだよ…。


お前というプレッシャーから…。



俺のしたことは、罪滅ぼしになったかな?


お前が今、笑ってるなら、俺はそれだけで十分だから…。




結局パスタを食べながら、誰一人として先ほどの話には触れなかった。


そして不自然なほど明るく、“いつも通り”を演じていた。


俺がルミを馬鹿にして、真っ赤に膨れたルミは千里を頼って。


真鍋がそれを見て、お腹を抱えて笑う。



多分みんな、必死で軌道修正したかっただけなんだ。


脱輪してしまえば、誰にも止められないから。


あの時一瞬にして顔色が変わった千里に、腫れ物に触るみたいな扱いだった。



…結局、最終的に壊したのは、俺なのに…。


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