粉雪2-sleeping beauty-
―ガシャーン!

『社長!!暴れないでくださいよ!!』


勢い良く机を蹴り飛ばした俺を、真鍋は後ろから羽交い絞めにした。


缶コーヒーが、スローモーションのように宙を舞う。



「離せ、真鍋!」


『ダメですって!
事務所壊れますから!!』


「クソッ!」


瞬間、目が合った従業員は逃げるように帰って行った。


同じように、“お疲れ様っす!”と言い残し、嵐のように部屋を去る従業員達。



『…ほら、もぉ…!
そんなんじゃ、ホントにみんな辞めちゃいますよ?』


「チッ!」


舌打ちを吐き捨て、スーツの襟を正した。


床に転がっていた缶からは、コーヒーの茶色が広がっていった。



『今日は飲みに行きましょう!
ね?俺も付き合いますから!!』


「行くか、馬鹿!
結局、俺が奢るんだろーが!」


睨みつける俺に、真鍋は眉を上げてため息をついた。



『…あーあ、もぉ…。
どーすんすか、コレ…。』


そして真鍋は困ったように言いながら、ティッシュ箱を持ち出して、

床に広がるコーヒーを丁寧に拭き取った。


ゴミ箱には、すっかり茶色に変わってしまったティッシュの山が、

次々に投げ込まれていく。



「…後は、任せるわ。」


そんな光景を横目に、それだけ言って事務所を後にした。


すっかり肌寒さも消え、空は青から群青に変わろうとしていた。


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