粉雪2-sleeping beauty-
とても家に帰る気分にはならなかった。


結局、行く場所もなく寄ったのは、パチンコ屋。


家に帰らずにゲーセンに行ってたガキの頃と、何ら変わりはない。



流れ出るパチンコの玉を、煙草を咥えてただ見ているだけ。


トリップしたみたいに思考回路が停止して、周りの雑踏が遠くで聞こえる。


うるさい連チャンの音も、怒鳴る男の声も、何も耳には入ってこなかった。



その時初めて、“悪いことしたのかなぁ”とか、

“ちょっと怒りすぎたかなぁ”なんてのが、頭をかすめた。



不意に、千里の顔が頭をよぎる。



「…つーか俺、怒鳴ったまま電話切ったんだっけ?」


思い出し、やっと事の重大さに気がついた。



「…ヤベェ…のかな…?」


段々と考えは悪い方向に行き、口元が引き攣る。



携帯を取り出し、千里の名前を表示させて通話ボタンを押した。


なのに聞こえてくるのは、機械的なアナウンスだけ。


瞬間、嫌な予感が全身を駆け巡った。



咥えていた煙草を急いで灰皿に押し当て、

台の上に置いてあった煙草とキーケースを鷲掴んで、店を飛び出した。



あの馬鹿、家に居ろよ?!


車を走らせ、千里の家に向かった。


煽るように前の車を追い越し、ドリフトの様に交差点を曲がる。


心臓が、嫌な音ばかりを立てる。


その所為で、不安ばかりが広がっていった。


近いはずなのに、こんなにも遠く感じる。



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