粉雪2-sleeping beauty-
『…マツ、あたしね?
自分のこと、嫌いなの…。』


「…うん。」


カウンターの中からこちらに向かって足を進めた千里は、

ゆっくりと、語りかけるように言って、俺の横に腰を下ろした。



『…マツは…何であたしのこと、嫌いにならないの…?』


「―――ッ!」



“愛してるからだよ”なんて、言えなかった。


悲しそうに聞いてくる千里から、ただ目を逸らすことしか出来ない。



「…嫌って…欲しい…?」


恐る恐る聞いた。


心臓は、嫌な音ばかりを打ちつける。



『…それが多分、一番ベストなんだと思うよ。
だけどあたし、マツに嫌われたら悲しいから…。』


そう言って目を伏せた千里は、再び俺の瞳を捕らえた。


『…だからあたし、自分のことが嫌いなの…。』


「―――ッ!」



離れることが一番お互いの為になるってことは、もぉわかっていた。


だけど俺達は支えあってるから…。


どっちかが居なくなればバランスが崩れ、立っていることさえ出来ない。


そんなことを言葉にして、突きつけられているようで。


それがただ、悲しかった。




「…居なくなるんなら…頼むからお前から消えてくれ…。
俺には…お前を突き放すことなんて、もぉ出来ない…。」


『―――ッ!』


横目に見た千里の肩は、震えているようにも見えた。


だから俺は、また目を逸らした。


今手を差し伸べれば、また千里は、俺から離れられなくなるってわかってるから。




『…そんなことが出来るなら…楽なんだろうね…。』


「―――ッ!」



ただ、苦しかった…。


いつまで続いても結局、終わりなんて見えてこない。




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