粉雪2-sleeping beauty-
『待って、マツ!
お願い!!』


立ち上がった俺の腕を掴み、千里は声を上げる。


悲しそうに揺らぐ瞳は、俺を捕らえて離さない。



『…あたし達は…どーなるの…?』


「…そんなの…俺にもわかんねぇよ…。」


振り絞るように声を上げた。


「…“何かあった”みたいな言い方…すんなよ…。
俺とお前は…何もなかったんだよ…!」


『―――ッ!』


千里は悲しそうに、ゆっくりと掴んでいた俺の腕を離す。


その場所から、俺を形作っていたものが壊れてしまわないようにと、ただ願い続けた。



何で何もなかったのに、離れられないんだろう…。


“心が繋がってる”とか、そんな目に見えないものなんかじゃ、何もわかんねぇよ…。


最初からずっと、千里の指には隼人さんの指輪が輝いていて…。


同じスカルプチャーの香りを纏い、同じ匂いを発するようにセブンスターを吸って…。



そんな千里なのに…


心は繋がってるんだと思ってた…。



せめて最後は、引き止めて欲しかった。


そうすれば…


そうしてくれれば良かったのに…。






『…ねぇ、マツ…。
今までずっと…。
ずっとずっと…ありがとう…。』


「―――ッ!」



千里は何も言わなかった。


最後は約束通り、お前から離れていってくれるんだな…。


優しい女だよ、最後まで…。


お前はすっげぇ、大馬鹿なんだよ…。


ホントはお前だって、俺なしじゃ生きられないくせに…。


強がってばっかで…。




もぉすぐ、12月が来るな…。


俺とお前が、もっとも嫌いな季節。


だけどこれからは、俺達が支えあって生きていくことはないんだ…。


もぉ、何も聞いてやれない。


何も、言ってやれない…。




ごめんな、千里―――…





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