粉雪2-sleeping beauty-
『―――社長!
俺明日、磯村と現場行くんすけど、それも電話しといたっすから。』


「…そっか、段取り良いな、お前。」


丁度タイミング良く真鍋が戻ってきて、俺に声を掛けた。



『磯村、ビビってましたよ。
でも、俺も社長もピンピンしてるって言ったら、安心してました。』


「…どこがピンピンだよ…。
体中痛ぇっつーの。」


『…俺だって車のこと考えたら、頭痛いっすよ。』


首をさする俺を横目に、真鍋は思い出したようにまたうな垂れた。



「…生きてただけでも良いだろ。
お前、子供の顔見る前に死ななくて良かったな。」


『それっすよ!
嫁に電話したら、めちゃくちゃ心配されましたもん!!
急いで来るみたいっす。』


そんなことが少しだけ羨ましくなり、“良かったな”とだけ告げた。



『社長どーします?
うちの嫁に、事務所まで送らせましょうか?』


「…悪ぃけど俺、千里呼んだから…。」


『―――ッ!』


瞬間、真鍋は目を見開いた。


困惑する瞳が、真鍋の顔を滑稽に映し出す。



「…変な世界に居た時に、色々考えたんだよ…。
そしたらただ、アイツに会いたくなった…。
会ってどーなるかわかんねぇけどな…。」


『…そーっすか…。
良いようになると良いっすね。』


安心させるように力強く言い、真鍋は少しだけ俺に笑い掛けた。


そんな顔に、俺も少しだけ笑った。



まだ動く気力がない俺を残し、真鍋は歩き出した。


嫁さんを安心させるためであり、俺達に気を使ってのことだろう。


そんな姿を見送りながら、ただボンヤリと千里が来るのだけを待ち続けた。



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