粉雪2-sleeping beauty-
―コンコン!…

『はーい!』


中から声が聞こえ、ドアを開けた。


千里は読んでいたのであろう雑誌を閉じ、こちらに笑顔を向ける。



「…悪ぃな、遅くなって。
ホントはもっと早く来れると思ってたんだけど。」


『良いよ、そんなの。
さっきまではルミちゃん居てくれたし。』


「…そっか。」


千里のベッドに腰掛け、買ってきたお菓子を差し出した。



「…明日、退院だな。」


『…うん。』


瞬間、千里は目を伏せた。


だけど、何も聞こうとはしなかった。


きっと、俺が言うまで待ってるんだろう。


だけどそれを話すのは、退院してからだ。



「…明日の朝、最後の大仕事片付けるから。
それが終わる頃、多分お前が朝飯終わる時間くらいだと思うし、その頃迎えに来てやるわ。」


そう言って、いつも通り少しだけ頬に触れた。


冷えた指先に感じる温もりは、俺の心を穏やかにする。



『…そしたら、マツが今まで何やってたか話してくれる?』


「全部話すよ。
絶対、お前の喜ぶことだから。」


悲しそうに揺れる瞳を安心させるように、顔を傾けた。


夜の帳に支配された部屋は静寂に包まれていて、息遣いさえも漏れ聞こえそうだ。


目の前に居るガラス細工みたいに脆くて、

そして綺麗な千里の瞳に、吸い込まれてしまいそうになる。


込み上げる愛しさを振り払うように、頬に触れていた手を滑らせた。



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