粉雪2-sleeping beauty-
この病院で、俺は面会時間を過ぎても帰らされることはない。


自殺未遂をした千里には、

看護師や医者が何か言うより、周りの声の方が届くからだと言う。



“その代わり、しっかり彼女を支えてあげるのよ?”


そんな風にして俺は、特別扱いらしい。


嬉しくなるような気遣いも、あのふくよかな看護師の提案だという。




「そろそろ寝ろよ。」


『…うん。』


千里の手首の包帯は、まだ取れていない。


千里は“痛い”なんて一言も言わず、入院生活の間、俺を待ち続けた。


今まで苦しめ続けた分、今度は俺の手で幸せにしてやりたい。



“きっと、大丈夫”


そんな風に心の中で想い、ベッドに寝る千里に布団を掛けてやった。



「…今日は、何が聞きたい?」


『マツの恋愛。』


「…恋愛?」


突然出た言葉に、眉をしかめた。



『…マツのそーゆー話、ほとんど聞いたことないんだもん。』


「別に、語るほどじゃねぇだろ。
ギャルとも付き合ったことあるし、キャバの女とも付き合ったことあるし。」


ダルそうに言う俺に、千里は次第に目を輝かせ始めた。



『…何で別れちゃったの?』


「…もぉ忘れたよ。
俺が殴って出て行ったこともあるし、浮気がバレて別れたとかじゃね?」


『彼女、可哀想だね~。』


不満そうに言いながら、千里は口を尖らせた。



「でも今は、片想いとかしちゃってるんですけど~。
つーか、ガラにもなくマジだったりするんだよね~。」


『―――ッ!』


同じ口調で言ってみた俺に、千里は気まずそうに顔を俯かせた。


暗がりだから良く分からないが、きっと真っ赤なのだろう。



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