駆け抜けた少女【完】




その日の夜、矢央はうきうきと心を弾ませながら前川邸の門を潜った。


今朝、芹沢が矢央に言ったのは「今夜、お前の歓迎の宴を行うことにした」だった。


歓迎の宴、つまり芹沢は矢央を快く受け入れた証。


ここに来て早一月程経つが、皆矢央の存在を隠すために、矢央に狭い中での自由しか与えられていなかった。


たまに藤堂や永倉、原田などが一緒に食事をとってくれていたが大半は部屋で一人で食べる。

いつも賑わう道場には近づけないので、あまり隊士の寄り付かない副長室か与えられていた部屋で一日を過ごしていた。


文句なんてない。

当たり前だ、見ず知らずの女を何の見返りもなく養ってくれていたんだから……


だが、少し不満を言うなら、矢央は寂しかったのだろう。


不安が胸に残るなか、一人で過ごす時間の長さが物凄く苦痛だった。


近くでは人の声がするのに、相手から話しかけてくるまでは出歩けないし話せない。


しかし土方達がそうしていたのは、男所帯で矢央を守るためでもあった。

特に芹沢一派から―――



既にその心配も無くなってしまった今、今日やっと本当の自由を与えてもらえる。

そのための宴だ。



.
< 125 / 592 >

この作品をシェア

pagetop