駆け抜けた少女【完】
ーーー布団……益々分からない。
布団から這い出た少女は、眠る沖田を起こさないようにと足音を忍ばせながら縁側へと出る。
体の力が思うように入らないので、ひんやりとした縁側にペタリと座ったまま満月を見上げた。
こんなに綺麗な月を見たことない。
自分の暮らす町は割と都会に位置し、夜になるとネオンに溢れ夜空に浮かんだ月や星なんて見えない。
それはバイトをしていた神社も同じはずで、今日はやけに綺麗に見える月に訝しむ。
「此処は、神社じゃないの?」
「此処は、壬生浪士組屯所です」
「――――え?」
寝ているはずだった沖田の発言にも驚いたが、聞き慣れない言葉にさらに驚いた少女は、隣で自分をジッと見ている青年を見つめ返した。
「……み…壬生…ろ…ろろろ…」
「壬生浪士組屯所です」
「とんしょ………」
長いので少女は略した、その事が可笑しかったのか沖田はクスッと笑みを洩らす。
「覚えるのを放棄するのは関心しませんよ」
「はぁ―…ごめんなさい」
「いいえ。 では、あなたは誰でしょう?」