駆け抜けた少女【完】







「赤石?」


「うん……」


今朝の事を全く怒ってないと矢央が言えば、途端に気を楽にした藤堂は矢央の隣に座り一緒になって物干し場を見た。


赤石があるからと言って現代に帰られると限ったことではなかったが、やはり唯一の手掛かりがそれなのだ。



「それって大切な物?」

「未来にいた時、その石を見つけたら意識が遠のいた。それで気づけば、この時代にいたから……」

「そっか…じゃあ、はい」


藤堂が差し出した物に矢央は目を見開き飛びついた。


差し出された物こそ、あの赤石なのだ。


陽に照らされた小さな石は、キラキラと存在を示すかのように輝く。


「なんであなたが?」

「え、いや……洗濯したの僕だし」

「え、そうだったの?」



照れくさそうに頬をかき、余所を見つめる藤堂。

矢央が沖田と共に食事に行く時、濡れた服を自分が洗っておくと沖田から預かっていたのが藤堂。

悪戯好きだが、この人の良い青年なんだと矢央はわかった。







「それはどうもありがとうございました」


丁寧にお礼を言ってくる矢央に、次は藤堂が目を見開いた。


「なんだ…その、なんか調子が狂うから"普通"にしててよ?」

「普通って?」

「いや、もう何言ってんの。昨日から生意気な態度だっただろ? あれでいいよ」


生意気な態度。

自分はそう見られていたのかと少し戸惑う。


もっと言い方ってのがあると思うのだ。


にこにこと人の良い笑みを浮かべる藤堂を見てため息を吐いた。


デリカシーの無い人、これが矢央が藤堂に対したイメージにプラスされたのは言うまでもない。






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