駆け抜けた少女【完】
「逃げるんだっ! お前じゃどうにもなんねぇ!」
「嫌です! 逃げません!」
「んなっ!?」
矢央は永倉の下へ行こうと、刀を構える浪士と向き合った。
刀と素手では、どうあっても矢央の方が分が悪い。
だがしかし、浪士が斬りかかる瞬間、矢央は襖に体当たりし隣の部屋に飛び込む。
「でいやっ!」
矢央がいるであろう場所を定め浪士は、襖事刀を突き刺した。
「ぐっ!」
永倉は、一瞬息が止まった。
「やぁぁおぉぉっ!?」
暗くてよく見えない中で頼りになるのは音だ。
ドタンと音が響き、埃が舞う。
「や…お……。 待て…嘘だろ」
「永倉さんっ! 大丈夫ですか!?」
痛む手を握り締め俯いていた永倉の頭上から、ふわりと甘い香りが降り注ぎ、顔を上げると手を差し伸べている矢央がいた。
生きていた。
てっきり浪士事、襖の下敷きになったのかと思われたが、矢央は浪士の突きを何とか交わし、襖を蹴り倒したのだ。
「矢央……。 お前っ…馬鹿やろうが…」
「わっ! な、永倉さん?」
グイッと抱き寄せられた体は、永倉の腕の中に収まっていた。
血の匂いに、眉を寄せた。
「怪我…したんですか?」
「大したことねぇよ。 平助は、早く医者に見せた方がいいがな」
「平助さんが? あ、平助さんっ」
永倉の背後で壁にもたれて荒い呼吸を繰り返していた藤堂に気づき、矢央は素早く駆け寄った。
顔は青ざめ、小刻みな息づかい。
額当ての下から流れる真っ赤な血に、血の気が引く。
「平助さんっ! 平助さんっ!」
「や…おちゃ…。 どう、して…」
急がないと危ないかもしれないという恐怖が襲い、矢央は震えながら己の手を伸ばす。
しかし、その手を藤堂が力の出ない手で握った。
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