駆け抜けた少女【完】
賑わう人並みの中、物珍しそうに辺りをキョロキョロする矢央。
頭には、既にお祭り気分を味わうようにお面を被っている。
「迷子になんじゃねぇぞ」
前には原田と永倉が先に歩き、その後ろに矢央と藤堂が続く。
腕を組み振り返った永倉は、両手いっばいに持った食べ物を見て可笑しいと笑う。
「それじゃあ、食えねぇだろ」
「うっ! だって、こっちに来てお祭りなんて初めてだしっ、みんな美味しそうなんだもん!」
「俺は酒のが楽しみだねぇ…とっ!」
「あっ! 盗っ人!」
原田に菓子を奪われた矢央は抗議するも、両手が塞がっているのでどうにもならない。
「てかさ、一般人に混ざって物騒な奴らがうじゃうじゃだよねぇ」
矢央の荷物を少し持ってやった藤堂は、騒がしい路地に目を向ける。
一般人が賑わう表通りから、よく見なければ分からないが、数名の見知った顔が怖い顔で彷徨いている。
「ありゃ幕臣の奴らか?」
「大物でも見つけたかな」
原田や永倉も立ち止まり見る。
あの鬼気迫る雰囲気は、小物を追っているようには見えなかった。
「そういや、池田屋に集まるだろうと思っていた大物といえば長州藩の桂だが、姿を見なかったな」
「あの野郎は、いつも逃げてばかりだぜ。 それでも男かっつぅの」
焼いたイカを頬張っていた矢央は、桂と聞いて一瞬目を伏せた。
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