駆け抜けた少女【完】
「矢央ちゃんが僕の腕に触れて暫くしたら、僕の傷は一切無くなっていた。 そのかわりに、その……矢央ちゃんが……」
意識を無くした矢央を抱き上げた沖田は、自分の手にベタリとついた血を見て驚いた。
怪我をしてないはずの矢央の身体から血が溢れていることに気がつき、沖田に抱えられていた矢央の着物の袖を捲った藤堂。
ついさっきまでは藤堂の左腕を苦しめたはずの刀傷が、そっくりそのまま矢央の左腕に移っていた。
それを見た二人は、言葉を失ったまま屯所まで矢央を運んだのだ。
「あなたの傷は紛れもなく藤堂さんのものでした。いったい、どういうことでしよう……」
どういうことだと聞かれても、当の本人が一番わかっていない。
矢央には、その瞬間の記憶だけゴッソリと無くなっていたのだから。
「わかりません……。わ…たし、わからない…わから……」
困惑と痛み、そして向けられる驚愕の目にやるせなくなり、矢央の目尻からツーっと涙が流れた。
それを見た近藤は「うむ」と頷き。
「矢央君、とりあえずゆっくり休みたまえ。 怪我人を取り囲むのは悪趣味だ……今日のところはだな…」
「……そうだな」
近藤に促された土方と山南は、心身共に傷を負った矢央を休ませるため部屋を後にする。
それを見送る矢央の瞳はなかなか流れる涙を止めようとはしなかった―――――――