だから、君に
「麻生さぁ」

僕の突然の呼びかけに、びくっと体を震わせ反応した麻生は、珍しく驚いているようだった。

「……なんですか」

「根岸とは最近どうなの」

自分でも、なぜそんなことを口走ったのかわからない。
麻生は目をぱちくりと動かしたあと、眉をしかめた。

「プライベートに関わります」

「まぁね」

「なんで、そんなこと聞くんですか」

「……なんとなく?」

「なんで疑問形なんですか」

返事をせずに、また窓の外に目をやる。麻生はもう一度、なんでですか、と聞いてきたけれど、その声は消えてしまいそうなほど小さかった。

空の色が少しずつ灰色へ変わっていく。
今日の予報は雨だっただろうか。
どんよりとした雲が垂れこめて、いまにも降り出してきそうだ。

もうすぐ冬が来る。そんな気がした。


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