だから、君に
しばし呆然とした後、僕はガンガンと痛みの打ち寄せる頭を必死に抑えつけながら、倒してしまった椅子や散らばってしまった資料を元通りにし始めた。
今日の面談は麻生だけではない。まだ二人、僕には仕事が残っている。
床に落ちた模試の成績や通知表のコピーを拾い上げ、残る二人の希望届に書かれた文字を目で確認する。
空はゆっくり薄紫に変わっていって、夕日が差し込んでいたはずの教室にも暗い影を落としていた。
由紀。
『あの子は、男だったんだ』
麻生さんの声が耳にこびりついて離れない。
もう何年も抱えてきた、由紀への僕の気持ち。
由紀への僕たち『家族』の気持ち。
麻生さんとの出会いは、僕から傲慢な哀愁を奪い去った。
用紙を持つ指先がかすかに震えるのをこらえようと、力を込める。
僕は由紀が好きだった。
由紀はどうだったのだろうか。