だから、君に
「先生」

次の生徒が、教室の後ろのドアから顔を出す。

「面談、いいっすか」

麻生との間に時間が空いていてよかった、と割と冷静なことを思いながら、僕はゆっくりと深く息を吸い込んだ。

「ああ」

感傷にひたる暇はない。僕にはやるべきことがあるのだ。

そう思いながら仕事に励んできた。目の前の勉強をこなすこと、目の前の採用試験に取り組むこと、目の前の生徒と向かい合うこと、それがあることで僕の時間はひたすらまっすぐ進んできた。

そしてそれが結果的に、何の実りをもたらさない自愛の精神だけを持ち合わせることになったのだ。

向き合わなければいけない。

由紀が死んだことに。

僕の人生に。

まだ痛む頭で思考をめぐらせ、よわよわしいながらも僕はそう考えた。


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