だから、君に
【9】
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正月のテレビは、芸人たちのおめでたい賑やかな声をひっきりなしに居間へ届けてくれる。

実家のこたつにぬくぬく収まり、僕は母の作った雑煮を片手に、年配の男性が傘の上で球を転がすのをぼんやり眺めていた。

「大志、みかんもあるんだけど」

昨年よりも、また一回り小さくなったような気がする母が、山のようなみかんを抱えこたつに入った。

帰省するのはちょうど一年ぶりだ。僕が中学を卒業する頃、母と僕は当時住んでいた街を逃げるように出て行った。それ以来、母はこの漁港のある町に住み続けている。

僕らと別れた後、芹澤さんがどうしているか、僕は知らない。
彼の生存を確認するのは、由紀の墓前に添えられる、僕ら以外の花束によってのみだ。

「またみかん……こっち来てから毎日食ってるんだけど」

「おいしいよ」

「さすがに飽きる」

「でもおいしいよ」

相変わらず人の話に耳を傾けない。僕は渋々みかんを受け取り、雑煮食ったらね、と言って横にのけた。

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