だから、君に

コートのポケットに乱暴に手を突っ込む。昼に開封して仕込んでおいたカイロは、すっかり冷えてしまっていた。

年越しには実家に帰る。冬休みは短い。
その間に僕は、けじめをつけよう。

どうだろう、と心のなかで問う。

僕はこの先うまくやれるだろうか。
どうだろう、麻生。

ぽっかり浮かぶ月みたいに、麻生の顔が、ともすれば折れてしまいそうな僕の心を照らす。

困ったとき、少し苛立ったとき、きれいなものに出会ったとき、何かを決意するとき。
そんなとき一年前なら、由紀のことを思い出し、考え、問い掛けた。

それが由紀ではなく麻生になったのは、いつからだっただろう。

そしてその意味を、僕はまだ測りかねていた。

マンションへと続く街灯が、点々と夜道を照らす。
考えを振り切るかのように、僕の足は次第に小走りになっていった。


< 142 / 152 >

この作品をシェア

pagetop