だから、君に
「……そうか」

僕は小さくため息をついた。安堵とも悲嘆ともつかない、小さなため息。

麻生が僕を見つめている。答えを待っているのだろう。

この子は何も知らない。教えることが正しいとも思えない。

「殺してはいないよ」

僕は麻生に視線をやった。彼女の緊張が、ゆっくり解れていくのが見てとれる。

「……でも、追い詰めたのは僕らだったかもしれない」

今でも思い出す、暗い暗い海。

肌を刺すように吹く冷たい風。

僕の手の中で震えている由紀の手。



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