だから、君に
麻生の小さく息を飲む気配が伝わる。

「……じゃあ由紀姉は、なんで亡くなったんですか?」
慎重に間合いを図りつつ、麻生が僕に近づいた。

「祖父母は何も由紀姉について、話してはくれないし、母も……」

そう言いかけて彼女は口をつぐむ。

「海で、」

グラウンドに視線を落とす。カキンといい音がして、バットに打たれた球が気持ちいいほどの弧をえがいていった。

「身を投げたんだ。……自殺だよ」

グラウンドでまた歓声があがる。

生物室は気味が悪いほど静まり返っていて、窓が僕らと彼らをくっきり隔てているようだった。

僕の時間はあのときから、こんなふうに進んでいたのかもしれない。



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