だから、君に
【5】タマゴと君
【5】タマゴと君

高校の夏休みは、長いようで短い。
特に三年生のうち、受験を控えた生徒にとっては、高校生活最後の夏だなんて宣う余裕はない。

それは僕の生徒たちも同じだけれど、この海の町で年に一度行われる花火大会には、ほとんどの三年生も参加する慣わしのようだ。

そして僕たち教員は、夏の終わりに見回りに出ることになっている。

「花火大会が終わるのは8時ですから、高校生の門限には間に合っているんですけど、」

僕と海岸沿いを担当する前田先生は、水色のサンドレスを翻しながら僕の数歩後を歩いていた。
浜辺を歩くのに、サンダルは歩きにくくないのだろうか。彼女の華奢な身体の線にはよく似合っていたけれど、僕はそんなことが気になった。

「花火が終わってもたむろする生徒が多いですから。危険なことしないように、見回り頑張りましょう」

ふふ、となぜか楽しそうに笑う彼女に、はぁ、と間の抜けた返事をした。

日は既に傾いていて、深い青に沈んだ空の下、辺りは花火の始まりを待ち静かな昂揚に包まれていた。


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