だから、君に
開けっ放しの窓から、温い風が吹き込む。

なぁ、由紀。君は僕を憎んでいるかな。

不意に、背中に触れられたことに気が付いた。

「……どうした?」

隣に立つ麻生が、小さな手で僕の背中をさする。

「喪失感、たっぷりだったから」

すっかり冷静な顔に戻った麻生の髪が、きれいに波打つのが見えた。

背中にあてられた手は小さくて、頼りなさげで、それなのにひどく暖かく思える。

あのとき握った由紀の手は、あんなに冷たかったというのに。

「そんなに哀愁漂ってるかな?背中」

「哀愁なんてカッコイイものじゃないです」

「年上の色香と呼んでくれてもいいよ」

じとりと麻生が僕を睨む。目は怒っているように見えたけれど、そのうちふっと優しく笑った。

いつか、この小さな女の子にも、話さなければいけないときがくるのだ。



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