だから、君に
「たとえばタマゴが、僕によって目玉焼きにされたとして」

「はぁ」

「タマゴはゆで卵になりたかった、って思うだろうか」

僕は想像した。
白身のふちがゆっくり焦げていくなか、真ん中の黄身は何を思うのか。

「とても滑稽な妄想ですね」

「どう思う?」

「ゆで卵に、なりたかったかもしれませんね」

「でもタマゴは選べない。自分がゆで卵になるか、目玉焼きになるか」

「だから荒川くんは幸せだと?」

「自分に選択権がある限りは、ね」

そうかなぁ、と麻生は苦笑いした。

「先生、例えが下手です」

僕も苦笑いを返す。

「でも一番不幸なのは、選択権がないことより」

「うん?」

「食べられたくない、って思うことですよね」

それはそうだろう。
タマゴだって、好き好んで僕らの胃に収まるわけではない。

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