妖魔03(R)〜星霜〜
「悪っていうのは、案外、策士だったりするんだぜ?」

殺さずに村に入る口実を作り、村を破壊するという罠。

だが、村を破壊したところで、俺には損害しか生まれない。

「君がそうまでして悪だと言うのならば、始末しなければならないな」

柔らかい目が鋭い眼光に豹変し、睨まれる。

俺の首にはいつでも刃物が突きつけられているのか。

確かに、闘うとなれば村相手では分が悪すぎる。

「村の中で君の死を悼もうとする者はいない。この意味はわかるかな?」

威圧感が全身に突き刺さり、冷や汗が頬を伝う。

「おっかねえ」

深呼吸を一つし、自分の状況を把握する。

もし、ここで長老が襲ってきたのならやるしかない。

だが、長老が動く気配もないし、ウッドも止まったままだ。

「この状況で声は出せるのか。恐怖に対して、少しぐらいの耐性はあるようだ」

「何の自慢にもならない、長老さんは、俺を殺そうと思えば、いつでも出来るんだろ?」

息苦しさが喉元を締め付ける。

「よく解っている。だけど、私にその気はないよ」

人の心臓を抉るかのような鋭利な眼光から、元の眼差しに戻る。

「君はウッドを助けたという経歴がある。だからこそ、私は君に対して何もしない」

「俺が妙な動きをすれば?」

「試してみればいいよ」

どこから自信が湧いて出ているのかは解らないが、出来ないのは確かだ。

無敵でもない限り、一人で村を破壊する事は不可能だろう。

しかし、少し待て。

今、ウッドを助けたと言わなかったか?

「今度は私から聞こう。古の水は何に使ったんだい?」

洞窟での事がすでにバレているのか。

ウッドの方を見たが、驚いた様子を見せている。

「ウッドは何も話していない。私はある程度の距離は見えているんだよ」

湖の距離といえど、そこそこの距離はあるはずだ。

それが能力だとでもいうのか?
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