秋霖のビ
彼は私の声にやっと気付いたかのように、少しビクッとして、こちらを疲れた目で見ていた。

少しの沈黙のあと、私は方向を変え、空き缶の入ったビニール袋をブンブン回して一歩踏み出す。

ビニールについた水滴は、水しぶきをあげる、私の心は晴れていた。

「待った」

ザバーンという波の音とともに背後から声がした。

首だけ後を向いた私の目には、彼が差し出した傘がひとつ。こちらも透明なビニールだった。


「持ってって、必要ないから」


ありがとうも言わずに、にやけた顔を押さえ込み、こくりと頷いて、彼からビニールの傘を受け取った。

どうか、まだ止まずにいてほしい。

真顔の彼が笑えるまで。

どうか……


くるっと方向を変え、私はもう振り返らなかった。


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