秋霖のビ
ジャクッと鳴った砂浜は、雨のせいでよけい歩きづらい。

行きたい方に彼がいる。

彼はまだ、ずっとずっと前を見ていた。

彼もまた少し前の私のように、今にも消えそうなくらい小さく身を固め、下唇を噛みながらじっと『何か』に堪えていた。

距離が近づくたびに、美しい雫の数々が、鮮やかに私の目に映し出されていく。

彼の後ろをそっと立ち去ろうとした足は、彼を一歩越えると不意に止まってしまった。

自分の行動が謎だったが、すぐに手にしている缶ビールが答えを教えてくれる。

彼の右隣にお供えでもするかのように静かに、缶ビールを置いた。


「私にはもう、必要ないから」


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