イチゴの気持ち ~イチゴ達のラブストーリィ~

ダメじゃないよ。だって、これは瑛君が…


本当はそう言いたかった。でも、言えなかった。


帰り道も、どう話していいか分からずただ、ただ、黙ってしまっていた。


分かれ道が来たとき、ふと私は思い出してカバンの中を探ってみた。


『春哉、今日はお疲れ様。疲れたけど、海きれいになってよかったよね。はいっ、これ』
私はカバンの中から取り出したものを手渡した。


「これ?あめ…」


『うん、私の大好きなイチゴのあめなんだ。これ食べるとうれしいことはもっと嬉しくなるし、嫌なことは忘れられるし、元気が出るよ』


春哉は手にした、イチゴのあめを見つめていた。


「あ、ありがとな」


『うん、食べてみて』


春哉はあめを口の中にいれて、笑顔で言った。


「これ、うまいな。七海の味がする…ってのも変な表現か…ホントありがとな。じゃあな」


『じゃぁね』


春哉の後ろ姿を見ていた時思わずこうつぶやいていた。


『春哉、ダメじゃないよ』


そう、春哉はダメなんかじゃない。やさしいし、頑張りやだし、そんな姿はかっこよく見えるよ…


自転車をこぎながらイチゴのあめを頬張った。


春哉が元気になってよかった。




イチゴの味は元気の味。


イチゴの味は私の味。


私の…味…


私はイチゴの香りのする唇をそっと指でなぞった。
< 66 / 73 >

この作品をシェア

pagetop