イチゴの気持ち ~イチゴ達のラブストーリィ~
ダメじゃないよ。だって、これは瑛君が…
本当はそう言いたかった。でも、言えなかった。
帰り道も、どう話していいか分からずただ、ただ、黙ってしまっていた。
分かれ道が来たとき、ふと私は思い出してカバンの中を探ってみた。
『春哉、今日はお疲れ様。疲れたけど、海きれいになってよかったよね。はいっ、これ』
私はカバンの中から取り出したものを手渡した。
「これ?あめ…」
『うん、私の大好きなイチゴのあめなんだ。これ食べるとうれしいことはもっと嬉しくなるし、嫌なことは忘れられるし、元気が出るよ』
春哉は手にした、イチゴのあめを見つめていた。
「あ、ありがとな」
『うん、食べてみて』
春哉はあめを口の中にいれて、笑顔で言った。
「これ、うまいな。七海の味がする…ってのも変な表現か…ホントありがとな。じゃあな」
『じゃぁね』
春哉の後ろ姿を見ていた時思わずこうつぶやいていた。
『春哉、ダメじゃないよ』
そう、春哉はダメなんかじゃない。やさしいし、頑張りやだし、そんな姿はかっこよく見えるよ…
自転車をこぎながらイチゴのあめを頬張った。
春哉が元気になってよかった。
イチゴの味は元気の味。
イチゴの味は私の味。
私の…味…
私はイチゴの香りのする唇をそっと指でなぞった。