タナトスの光
男性は、大きな鎌を持ち直すと。
「分かりません。それはあなた自身が、決めることです。でもおそらく、この世に生まれて来たからには、どんな人間にも、どんな人生にも、なにかしらの意味があるのでしょう。」

「こんな状況の、こんな僕にもですか?」
僕は思わず、問いかけていた。

その男性は、大きくうなずいて。
「見ないようにしていても。あなたはきっと、気がついているはずです。就職にしろ、友達にしろ、つながっていたのは、表面上だけで。それがとても希薄で、妥当な関係性だったということに。」

僕はハッとして、なにも言えずに、うつむいてしまった。

確かに僕は、就職には本気ではなかった。
ただ周囲がそうしているから、自分もそうする。
友達についても、その友達と付き合うことでの損得、利益感情を心のどこかで計算していたような気がする。

そのまま、またしばらくの間、無言の時間が流れた。

男性は黙ったまま、そんな僕を見つめている。

どれくらいの時間が経ったのか。
覚悟を決めたように、僕は顔を上げると。
「その通りだとしても、僕には分かりません。一番大切な、自分自身がなにをしたいのか、ということが。この歳になっても、全然分からないんです。ただ・・・。」

僕はゴクリと喉を鳴らした。

「ただ、なにかを表現してみたい。そんなことをときたま思うことがあります。もうこの歳では、遅いかもしれませんが。」

男性は身軽な動きで立ち上がると。
「なにかを始めるのに、年齢は関係ありません。六年も待ったのです。もう六年、待つことくらい、あなたにとってはなんでもないことでしょう。どうやら決まったようなので、私はそろそろ失礼します。」

そう言うと同時に、その男性は持っていた大きな鎌を僕に向かって振り下ろした。
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