テアトロ・ド・ペラの憂鬱







さすが元牧師。

博愛のもとか家族愛か、普段なら考えられないような優しい声でそう口にした。

スキンシップ過剰なピピを背中に抱え、セッタは小さく漏らす。

好きなものを選べ、と言われ困惑するこどものように。


「カルチョフォラータ(アーティチョークを使った料理)が食べたい…」

それはささやかな願いだった。
果たして願いといえるのか、そんなセッタが愛しくて仕方ない。


「なんだあ、そんなことでいいのか?」

セッタがへらりと笑う。
そして戯れに傷心のセッタの頬に噛みついて、アコを振り返った。


「おぅ任せろ!なっ、アコ!」

アコがずっこける。



「わたしかよ!たまにはあんたが作ればいいじゃん!この眉なし!」
「誰が眉なしだ!てめぇケツん中に(ピ―――)ぶっ刺すぞ!」
「極太眉毛書いてやるから覚悟しとけよ、セクハラ野郎!」


一気に賑やかになったテアトロ・ド・ペラに、カーラはビリヤード台に置いてあったグラッパを手に取った。



「いい香りだ…」

本名はカランドゥラ。

「Calandra」と書くが、意味は「シデの森」。

明らかに偽名だが、今年、三十八になる彼はそれを律義に名乗っていた。







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