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「お風呂あいたよ~♪」



風呂の扉が開く音がしてすぐ、藍希が俺の部屋にきた。



濡れた髪からシャンプーのにおいがする…



「…じゃあ、俺も入ってくる。待ってて。」



平然を装って、逃げるように風呂場へ行った。





ガラッ



ドアを開けると、またあのにおいがした。


違うシャンプーの匂い―――――



「(…やだな……早く出よ…)」



シャワーをさっと浴びて、風呂のフタを開けた。



お湯の上に黄色いアヒルが浮かんでいる。




「…クスッ……」


可愛らしい目をしたアヒルに、白い名札がついている。



そこには、藍希の字で『モモ』と書いてあった。


「(桃……どこが…?)」



湯船にザバッと入って、アヒルの腹を押す。



  があっ


「…………………」


間の抜けた声がして、空気が止まった。



「…………………」



  があっ



  があっ



  があ、があがあがあがあっ


  ががががががががががあっ



腹を連打していると間抜けな声がさらに間の抜けたように聞こえて、笑が込み上げてきた。



「…ふっ……あははははっ!!!」


なんだか妙に面白くて、声を上げて笑った。


小さな子供のように、無邪気に笑った。







部屋越しに、藍希の怒っている声が聞こえた。
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