今まで、恋なんてたいしたことない、恋したって得るものなんて何もないし変わるものも何もないと思ってた。


でも、俺は藍希に会ってここまで変わった。



「(人は……たった一人の人間の影響でも、こんなに変わるんだな…)」




父親を見ていて、ずっとそう思っていた。


人間なんて変わらない、産まれた瞬間から何もかも、生き方も、寿命も、進む道も、何もかも決まっている。



運命も偶然も、関係ない。


たとえあったとしても、そんなものはすぐに逃げていく。

手に入れることはできない。



切り開くこともできない、望んだって手を差し伸べてもくれない、冷たいものだと思っていた。


「(でも…………)」


藍希の中学に俺が転校してきたという偶然、屋上で出会えた偶然、たくさんの偶然が重なって、今の俺と藍希がある。




「(藍希は……俺の考え方まで変えてくれたよ…ありがとう……)」




ありがとう…



素直に口にしたのは、久しぶりのことだった。



「(俺は性格まで変わったのか。)」


少し自嘲気味に笑って、俺は、重くなってきた瞼を静かに閉じた。






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