恋口の切りかた
何のことだ?

俺には彼女が何のことを言ってるのかわからなかったが──


「円士郎殿は──本当にどうしていつも……」

俺の袖をつかんだまま、鳥英は泣きながら笑った。

「……突然現れるのだ?」


俺は何も言えずに、鳥英を見下ろした。


鳥英は座ったままうつむいて、

しかし俺の袖を放そうとはしなかった。


「どうして、こんな時に限って……現れるのだ、お前は──」


肩が小刻みに震えていた。


薄暗い室内で、白いうなじが目に入る。




──鳥肌が立った。




目の前で泣いている彼女からは、普段の男っぽい言動によって押さえ込まれていた女の色気が漂っていて、俺はくらっと視界が揺れたような気がした。




ヤバい。




ただでさえ、

宗助の話を聞いた俺には、彼女の家を没落させたのが俺たちのせいだという負い目から、彼女に対する責任感のようなものが生まれていて

それは──留玖の過去に対する負い目や責任感と同種の感情で、

泣いている彼女を見て何とかしてやりたいと思っていて


ヤバい、ヤバいぞ俺……!


変な焦りが生まれ、
自分が男だということを嫌と言うほど意識させられた。
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