恋口の切りかた
「どうして……」

そんな俺の前で、鳥英がそう繰り返すのを見て──俺は意を決して手を伸ばした。


「悪い、鳥英」

一言謝ってから、



細い体を抱き寄せて、泣いている彼女の頭を自分の胸に押しつける。



「え……?」

彼女から動揺の気配がして、

「誤解はすんなよ」

俺は鋼の自制心で己を保ったまま、腕の中の女に言った。

「俺にはこんなことしかしてやれねえが……胸くらい貸してやるから、気が済むまで泣けよ」


抱き寄せた鳥英の体は想像よりもずっと、か細く頼りなく柔らかくて──

思春期真っ盛りの俺にとっては、理性の限界に挑戦するようなキワドい状況だった。

我ながらやめておけば良かったかと、抱き寄せてから軽く後悔したが──やはり泣いている彼女を前にして放っておくこともできなかったし仕方がない。


「ま、何があったのか知らねーけどよ」

小さく苦笑しながらそう付け足して、



細い指が、俺の着物をつかんで、
鳥英がすがりついてきた。


開きっぱなしになった戸口から入り込んでくる、ざあ……という雨音が、妙に大きく耳に届いた。
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