恋口の切りかた
「どうして……」


彼女は俺の胸に顔を埋めて泣きながら、また繰り返した。


「どうして……」


何に対する「どうして」なのか俺には相変わらずわからず、黙って彼女が泣くのに任せていたら──



「どうして……遊水ではないのだ……?」



うお!?

そう来るかよ……。


彼女から漏れ出でた言葉に、溶けそうになっていた頭がすうっと冷静さを取り戻した。


「そいつは……悪かったな」

俺が謝ると、「ああ」と鳥英が顔を上げて微笑んだ。

「違うんだ……そういう意味ではなくて……」

その儚げな笑みは絶大な威力でもって再び俺の理性を浸食し、俺は頭の中で己の限界との攻防戦を再開するハメになった。

終始劣勢なまま激闘を繰り広げていると、


鳥英は、ぽつりと


「虹庵先生から、嫁に来てくれないかと言われた」


そう言った。
< 1,034 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop